ダンスがある事によって私は人生が変わりました。本当は辛くしんどい時期がたくさんあったんですが、ダンスがあったからこそ笑顔で乗り越えてこれた。だからこそ、子どもたちへの指導でも、そういう本質のことを伝えていきたいんです。
―まずは、大機先生がどのような活動をされてきたのかをお聞かせください。
ワールドウィングスというダンススクールを経営しておりまして、バトントワーリングやチアダンス、HIPHOPの選手育成に長年携わってきました。私自身、元々はバトントワーリングの選手をやっていまして、そこからクラシックバレエ、ジャズダンス、更にはチアダンスなど、どんどん幅を広げ、指導者としての活動もしていたんです。高校卒業後、大阪府茨木市に引っ越しをしてきました。結婚後一度は専業主婦になるつもりで家庭に入ったんですけど、ある時、近所の方が訪ねて来られて、その方は私が所属していたスクールの先生がかつて指導していた生徒さんだったそうで。結婚されて子どもさんが出来て、是非ともバトンをさせたいと。その出会いが、もう一度指導者として復帰するきっかけになったんです。そこから子どもたちの育成に力を入れ、口コミで生徒もだんだん増えていき、みんなそれぞれ良い成績が出るようになったり、茨木市の地域貢献のための市の行事や大会にも出たり、今では300名が所属するスクールになっています。その間、出産を2 回し、子育てをしながら、競技としてのバトントワーリング、競技としてのダンスの指導に特化するようになっていったんです。そして去年でちょうど25 周年を迎えることができました。
―今回のインタビューは、今宮高校ダンス部顧問の春名先生にご縁を頂き実現したのですが、今宮高校はじめ、高校生ダンス部を指導されるようになったきっかけを教えて頂きたいのですが?
全国ダンスドリル選手権大会というのが中学校・高校とあるんですが、そこにワールドウィングスが高校生だけでチームを作って出場していたんです。今はもう高等学校のみになったんですけども、最初の頃はクラブチームも出場出来る大会だったので。当時は、関東勢が圧倒的に強くて、全国大会はもう関東の大会みたいになっていたんです。でも私たちがクラブチームとして出場し、西日本の大会では常に優勝し、全国でも総合優勝を獲るようになっていきました。それによって、いくつかの関西エリアの学校から問い合わせを頂くようになりました。そういうきっかけで指導させて頂いていた関西創価高校の先生から、なかなか成績が奮わず上位に行くことが出来なくて悩んでいた春名先生をご紹介頂いて、そのご縁で今宮高校も指導させて頂くことになったんです。その時、関西創価高校は総合優勝「文部科学大臣賞」を5回受賞するようなチームに成長していたんですが、数年経って今宮高校も文部科学大臣賞を獲り、国際大会連続5回総合優勝を達成することが出来ました。
「子どもたちのために何か力になりたい」ということを常に思っています。具体的には、”全てプラス思考に持っていける人に育ってほしい” というのが私の根底にある教育方針なんです。
―高校生のクラブを指導するにあたってご自身の中で何か変化はございましたか?
もともとバトントワーリングは公認指導員の資格を持っていて、審査員も十何年やってきていたのですが、高等学校のクラブと出会い、生徒との繋がりもだんだん深くなっていくにつれ、全国高等学校ダンスドリル選手権大会に出場する生徒を教えるためには、私も指導者としてもっと勉強をしないといけないという気持ちが非常に強くなりました。例えば、HIPHOP やジャズやPOM 等、みんなの得意な部分を伸ばしてあげる種目をもっと勉強していかなきゃいけない。そして、やはり自信を持って生徒達を送り出すためには、出場する大会の審査員の資格は全部勉強しないといけない。そのために、審査の勉強をしにずっと東京へ通っていた時期がありました。子育てもしながらなので、子どものご飯を作って、冷蔵庫の中に入れておいて、金曜日の練習が終わったらそのまま夜行バスに乗って、何回も東京に通いました。その後、地区大会審査員から全国大会審査員まで10 年間させていただきました。子どもたちに一番最短距離で正しい事を教えていくということ。それが私の指導のモットーのひとつですね。
―子育てをしながら大変だったと思うのですが、そこまでやりきれた原動力は?
「子どもたちのために何か力になりたい」ということを常に思っています。具体的には、”全てプラス思考に持っていける人に育ってほしい”というのが私の根底にある教育方針なんです。だから指導の中で子どもたちと接するときでも、とにかくプラス思考で、とにかく笑顔で楽しく、常にモチベーションを上げてあげたいと思ってやっているんです。実はその考え方は、私自身の体験からきているんです。私は高校生の時に父親を亡くしていて、その父親の会社の従業員による使い込みで多額な借金をしていたことが発覚し、そこからお母さんと2 人でコツコツ返済をしていきました。そういうこともあって、結構大変だったんです。でも母親はずっと「バレエとバトンは頑張ってやりなさい」と支えてくれていました。私自身もアルバイトをして高校の授業料もレッスン費用も全部自分で払っていました。でも、その頃苦労をしたけど得たものもすごく多くて。高校3 年生の時には父親の下の世話も全部やっていましたが、それをマイナスに感じるのではなく、楽しむと捉えようとしていました。いくらしんどくても「しんどい」と100 回言っても楽になる訳ではない。もうとにかく「笑顔で頑張ろう!」っていつもお母さんと一緒に乗り越えてきました。その経験が私の原点なんです。そして、その時に私を支えてくれたのがダンスだったんです。ダンスがなかったらきっと家に閉じこもっているだけでしんどかったと思うんですけど、ダンスと触れ合い、身体を動かして全力で汗を流し、人に笑顔や元気を与えるという事を自分がしていこうという気持ちが芽生えてきました。ダンスがある事によって私は人生が変わりました。本当は辛くしんどい時期がたくさんあったんですが、ダンスがあったからこそ笑顔で乗り越えてこれた。「こんな事想定内よ。もっと大変な人いっぱいいてるんやからとにかく頑張ろう!」って思えるんです。だからこそ、子どもたちへの指導でも、そういう本質のことを伝えていきたいんです。
チャンピオンになったとしても、人間形成という部分に関してはまだまだ成長するための課題がいっぱいある。だからこそ、ダンスを通じて「今の自分を越えていく」ことが大事。
―競技となると、本質的な楽しさや喜びをというところと、点数をしっかり取って勝ちに行くところって、相反することになってしまう可能性ってありますよね?指導する上でその難しさはありますか?
ありますね。例えば、ナショナルチームとして世界選手権に行かせて頂いて、他国と同じ会場で一緒に練習した時なのですが、私たちのチームは常に笑っていたんです。凄くきついんですよ、本当にもう限界まで練習するので。でも誰かが必ず笑顔なんです。上手くいかなくても周りが責めるのではなく「よっしゃー!次やるでー!」って大阪弁が飛びかっていました(笑)。でも、他国のチームを見ると、コーチが1時間ぐらい結構厳しく説教していたんです。各国代表ですからね、厳しくて当然なんですけど、結果的にみんないい顔をしていなかった。辛そうな顔で、やらされている感が伝わってきてしまいました。私も昔は厳しく教えた時期も正直ありました。でもそうではなくて、とにかく楽しい練習。その中で苦労してきた事が価値に変わっていく瞬間があるので、そういう事を教えていきたいと思っています。きっと今宮高校では大きな声で怒った事はないと思います(笑)とにかく褒める、笑う。気になった子がいたらそっとその子の横へ行って、何が原因だったのかちゃんと聞いてあげて励まし、次の時にちょっといい顔をしたら思いっきり褒める。そういう風な指導をしていますね。私がダンスに巡り合ってその楽しさで苦しい事を乗り越えてきた高校生の時、その時の私と同年代の子たちをどう楽しませてあげるかなんです。だから練習は凄く楽しいですし、ギャーギャー言いながらやっています(笑)。やらされているじゃなくて、本人が自らやりたいと思う練習を作っていかないと。私のカラーに染める練習ではなくて、その子一人一人の持ち味を生かして、子どもたちが持っているパワーをとにかく元気いっぱい爆発させる事の出来る練習を心掛けてます。
―ダンスを通じて子どもたちの人間的な成長も凄いんじゃないですか?
そうですね。それが私の一番大事に思っているとこです。世界チャンピオンになったとしても、人間が出来ていなかったら絶対いけないです。前回ダブルス3連覇、チーム2連覇、大学選手権も世界チャンピオンにならせてもらって、アジアに行ったらアジアのチャンピオンになって。そうなったらちょっと自惚れたり鼻高々になったりすることもありそうじゃないですか?でも、きっと誰もそう思ってないと思うんです。私がいつもみんなに言っているのは、人間形成という部分に関してはまだまだ成長するための課題がいっぱいある。だからこそ、ダンスを通じて「今の自分を越えていく」のだと。ダンスの技術も世界のレベルがどんどん上がってきていて追われる立場だし、準優勝のチームもとても上手。みんな命がけで頑張ってきている。だからこそ常に今の自分を越えていく。人間として越えていく。だからみんなは「まだまだや」って言ってくれています。表彰して頂ける事にはしっかり喜び、感謝の言葉も口にするけど、きっと全員まだまだやと思っているはずです。そういう気持ちを常にもっていないと、本当の意味でのチャンピオンではないですよね。
私はそんなに強い人間じゃない。あの病気との戦いはもしかしたら負けていたかもしれない。それでも勝ってこられたのは一緒に戦ってきた仲間がいたから。子どもたちとの関係は、指導者と生徒の関係ではなく、「一緒に戦ってきた仲間」という関係なんです。
―沢山あるのは承知で、大機先生がダンスの力、スポーツの力を実感したエピソードを一つあげるとしたら?
私は7 年前に卵巣癌を患い、2 回の大手術、6回の抗ガン剤治療と結構マックスの治療をしてきた経験があるんです。実は命がこうやって助かっている事が奇跡なんです。7ヶ月間入院をしたんですけど、その時に指導に携っていた関西創価高校、今宮高校、三島高校のダンス部のメンバーがずっと励まし続けてくれたんです。お部屋の中がいっぱいになるぐらい励ましのお手紙や千羽鶴をいただきました。ある時、抗ガン剤を打った一番しんどい次の日、最終回は髪の毛も全部抜けてしまっていたんですが、敢えてその日に生徒を集めたんです。ちょうど大会に挑んでいる最中だったので、作品の相談をするために。面会が出来る部屋で生徒たちや先生と動画を見ながら、ここはこうした方が良い、ああした方が良いと言いながら、その場で踊って作品を作っていました。「一番しんどい時に負けんとこ!」っていう気持ち、戦っていくパワーをみんなからもらい、私からも与えたいと思ったんですよね。私はそんなに強い人間じゃない。あの抗ガン剤の戦いはもしかしたら負けていたかもしれない。それでも勝ってこられたのは、絶対にスポーツの力。どんな事があっても目標をぶらさず一緒に戦ってきた仲間がいたからです。子どもたちとの関係は、指導者と生徒の関係ではなく、「一緒に戦ってきた仲間」という関係なんです。そして、ちょうど最終の抗ガン剤治療が終わった冬に、帽子を被って今宮高校の練習に行ったんですよ。本当は何も許可は出ていなかったんですが、3 月にロサンゼルスでの国際大会に出場するという事で主人と「2 時間だけ」と約束して。体育館に着くとストーブを6 台ぐらい置いてくれていました。「みんなありがとう!帰って来たからね!一緒に頑張るから!」と言うと、全員泣いていましたね。髪の毛も抜けてしまっているので帽子を被って練習をしていたんですけど「帽子飛んでいったらすぐ取ってや!」なんて言いながら(笑)一緒に練習をしました。そして初めて国際大会で今宮高校が総合優勝を獲ったんですよ。その年の高等学校の全国大会では、同じように病院に励ましに来てくれていた関西創価高校ダンス部が総合優勝文部科学大臣賞を獲って日本のチャンピオンになってくれました。その時のメンバーの後輩が2WDC の世界を目指すためのスタートとなった子たちで、その後一緒にやってきた子が今のキャプテンです。
―節目節目でスポーツの力に助けられてきたのが大機先生の人生なんですね。
そうですね。病気を乗り越え、退院してから私の考え方が変わりました。一回一回の練習や一人一人に接する時に、いい加減ではなく人としてしっかり付き合っていき全身全霊をかけて育てていきたいと。みんなが私を乗り越えさせてくれたのでまたここの場所に戻ってくる事が出来たんだ、という感謝の気持ちを大事にしていこうと思いました。子ども達に携ってくれている色々な方がいらっしゃるじゃないですか、学校、顧問の先生、ご両親、後援会など、自分ひとりではなく沢山の方々の力を借りて、今こうやって頑張らせてもらっている事を心から感謝をしながら、まずは自分が楽しんでイキイキと輝くという事がそのまま感謝の気持ちとして伝わる事になるし、それが一番大事なスポーツの力になると思います。だから、今宮高校の体育館に上がった時は、いつも感謝の気持ちを忘れたらだめだと思いながら生徒には接していますね。そして「不可能はない。努力する事によって全て可能になっていく。」という事を身をもって伝えるために、テンションを上げながら楽しませるということをやっています。毎年新入部員も入ってきます。一から「私病気をしてこうでこうで」とは一切言わないですが、私から発するパワーを常に伝えていきたい。そしてそれが子どもたちにとっての「命の勉強」ということに繋がってくれたら嬉しいですね。
2012 年にコーチを務める関西創価高等学校ダンス部がアジアの大会でNo.1 に。そして春名秀子先生とタッグを組み、今宮高校ダンス部は「ミスダンスドリル国際大会」の総合優勝5 連覇を成し遂げた。率いるダンスチーム“WORLD WINGS 2WDC “は、2018 年4 月「ICU チアリーディング世界選手権」、「DANCE WORLD」共に金メダル、同年10 月「世界大学チアリーディング選手権大会」「アジアチアリーディング選手権」においても優勝へと導いた指導者。チャンピオンの育成だけでなく各種大会の審査員や、海外・国内公演プロデュース、イベントプロデュースなど幅広いジャンルでも活躍。ワールドウィングスは今年で設立26 周年を迎える。