大阪マラソン組織委員会事務局競技運営部競技運営課 課長補佐 林 昌之

大阪マラソン組織委員会事務局競技運営部競技運営課 課長補佐 林 昌之

大小かかわらず様々な「感動」がスポーツにはある。それが発展していき地域を活性化したり、国を大きく動かしたりするのかもしれません。大阪マラソンをそういう本質的なところでメジャーにしていきたい。


―まず、都市型マラソンについてお聞きしたいのですが、日本だと代表的な地域はどこになりますか?

 都市型マラソンでは、東京・大阪・神戸・京都・名古屋があります。名古屋はフルマラソンとしては女子だけですが、ハーフは男子も走れますし、10 ㎞もあります。大会前日は親子のファミリーマラソンもあります。ランナーの合計人数としては国内で  番大きい大会だと言われていますね。都市型マラソンの魅力は、普段、車が走行している道路を交通規制をかけて、走れるということだと思います。運営に携わることで、どのようにコースが決まり、どのように大会がつくられていくのかということも分かってきました。

―昨年 11 月に開催された第8回大阪マラソンの参加人数はどれぐらいだったんでしょうか?

 ランナーは 3 万 2000 人。3 万 7500 人(2019 年大会)の東京マラソンに次いで日本では2番目の規模ですね。年齢層は 40 代 50 代が多く、まだ男性の方が多いですが、マラソンブームということもあり、最近は女性の参加者も増え、大会が華やかになってきました。先ほどの名古屋ウィメンズマラソンではゴールの直前に身だしなみを整えてフィニッシュしようということで、リフレッシュステーションがあり、メイクが直せるようになっています。42 ㎞を走るのは大変なことですけど、いい笑顔でフィニッシュしましょうということだと思います。また、フィニッシュ後すぐに記念撮影ができるようになっています。これは女性ランナーのマラソンならではの素晴らしいおもてなしだなと思います。大阪マラソンではフィニッシュ後の女性更衣室にはパウダールームを完備したりしています。そういう取り組みをすることで、女性ランナーが多くなればと思います。

―林さんは大阪マラソン組織委員会事務局にお勤めになられていますが、具体的にはどのようなお仕事をされているのですか?

 僕は競技運営部に所属していまして、大阪府警本部、沿道警察署、大阪市消防局、大阪陸上協会との協議や調整が仕事の中心で、他に給水所や収容関門バスの留め置き場所の依頼、コースのチェック等もしています。府警本部だけでも年間 10 回以上協議や調整で伺っています。それぞれの協議や調整にかなりの時間を費やしますので、1年間大阪マラソンのことだけをやっています。昨年 11 月 25 日に第8回大阪マラソンを開催しました。その当日は『終わった~!』とホッとできるんですが、翌日から第9回大会の準備が始まります。第9回大会からは新コースになります。その準備を既に 2017 年の夏から始めていたこともあって、ちょっとバタバタが続いていましたね。世界のメジャーと言われるマラソンに我々大阪も肩を並べるタイミングが今だと考え、セントラルフィニッシュを目指すことになりました。

―このタイミングで新しいコースにしようというのはなぜでしょう?

 今、世界のメジャーマラソンが「セントラルフィニッシュ」なんです。既にセントラルフィニッシュを導入している東京マラソンもシックスメジャーというメジャーマラソンの中に入っております。大阪マラソンも今まで  回開催し積み上げてきたノウハウがあり、府民市民の皆様にも回を重ねるごとに認知されてきたので、ご理解頂けるのではないか。そういったことを総合的にみて、メジャーと言われるマラソンに我々大阪も肩を並べるタイミングが今だと考え、大阪マラソンも第9回からセントラルフィニッシュでの新コースを目指すことになりました。セントラルフィニッシュする新コースの大阪マラソンを通じて、大阪という都市をもっと世界にアピールできればと思います。新コースを設定するにあたって、まずはセントラルフィニッシュをどこにするか?スタート時に集まるのは、ほぼ3 万 2000 人のランナーだけだと思いますが、フィニッシュでは、家族や友人等が応援や迎えに来られるので4万人以上になるんです。それだけの人数を受け入れ、複数の公共交通機関がある候補地を大阪市内で見つけるため、あちこちと現地ロケハンをしました。その中で、大阪の中心地であり、大阪を代表する大阪城公園が相応しいと思いました。

 次に、どのようにコースラインを引くかです。都市型マラソンを感じながら、魅力ある大阪のランドマークをめぐるコースラインを考える。その中で大阪市内の交通の流れを確保する必要があります。まずは地図で調べ現地ロケハンをし、コース案を作成し、府警本部と相談するということをかなりやりましたね。コース沿の警察署ともです。それと沿道対策もしています。スタート直後は先頭ランナーから最終ランナーの距離が離れていないため交通の規制する時間は短くてすみます。しかし、スタートして 10 ㎞くらいになると、その距離がだんだん長くなっていくため、交通規制の時間が長くなり、沿道の方の生活に長時間の影響が出てきます。これまでのフィニッシュは南港にあるインテックス大阪で、コースの後半は、工場が多くあったため、コース沿道の方々の生活への影響は少なかったかと思います。しかし、セントラルフィニッシュを考えると、住居も多く、コース沿道の方々の生活に大きく影響を与えるため、制限時間の変更やう回路の確保、コースの横断対策を考えないといけません。他にも、収容関門バスの停留所や救護所、仮設トイレの設置場所等を居住エリアで見つけることが難しく、何度もコース沿道を歩き候補地をみつけているところです。

―世界的なメジャーマラソンを目指すということは、国際的なイベントになるということですよね。

 「スポーツツーリズム」という言葉を数年前からよく耳にするようになりましたよね。インバウンドで大阪にも外国の方がたくさん来られているので、大阪マラソンへのエントリーも年々増えています。それによって運営サイドでも、外国人ランナーに対応が出来るように多言語表示の案内などを増やしています。そういう今までにない工夫が必要になってきます。今年はラグビーのW杯がありますし、東京オリンピック・パラリンピックもやってきますし、国際的なスポーツイベントがどんどん日本にやってくるので、セントラルフィニッシュする大阪マラソンもその仲間入りをしようという気持ちでやっていますね。

ランナーとして「参加する」面白さがあると思いますし、ランナーを「応援する」という面白さもあります。 それに加えて「支える」側として楽しんでいただける大阪マラソンになればと思っています。

―大阪マラソンの良さや面白さというのはどのようなところだと思われますか?

 そうですね。競技とは直接的ではないですが、大阪マラソンの良さとしてあげて頂くことが多いのは、独特の応援があるということですね。”単に 頑張れー “と言うだけではなく、自作の吹き出しパネルや看板を持って応援される方が沿道にいらっしゃるんですよ。『足痛い?気のせいや!』とか書いてあったり(笑)。『走れへんかったら怒るでおばちゃんが!』とかね(笑)。メディアでもよく取り上げられる「大阪のおばちゃん文化」のようなものを全面に出して沿道から応援してくださるんです。大阪らしさがあって、凄くあたたかいとランナーから評判を頂いています。

 もう一つ、大阪の各区を通って行きますので、その地域的な応援や催し物だったり、美味しいものを出してもらえるとか、そういうことがもっと増えていけば嬉しいですね。現コースでは、大阪市の商店会組合が約 30 ㎞地点において、「まいどエイド」という給食を自主的にやってもらっていて、お寿司、たこ焼き、冷やしきゅうり、梅干し、ブドウなど、色んなものを給食として提供して頂いています。それを楽しみに来られるランナーさんも多いんです。残念ながら遅いランナーが来たときにはもう売り切れてないということがあるんです。ここまで来たのに、、と落胆されるランナーもいらっしゃるので、「まいどエイド」を運営してくださっている方々からは、なんとか最後まで提供したいと我々に切実に仰っていました。

 そして、大会を支えて下さっている約1万人のボランティアの方々もおられます。前日の受付のボランティアをされ、”明日はランナーとして走ります”という方もいます。最後にお見送りでありがとうございました!助かりました! とお声掛けすると、ボランティアの方からも”ありがとうございました!”ととても良い表情をされていました。素敵ですね。

 もちろんランナーとして「参加する」面白さがあると思いますし、ランナーを「応援する」という面白さもあります。それに加えて、ボランティアだけでなく「支える」側として楽しんでいただける大阪マラソンになればと思っています。参加するランナー自身も 42 ㎞の中で、「競争」から「共走」に変わり、お互い支えあって完走を目指しているのだと思います。

レース途中では苦痛の表情を浮かべていたランナーが、達成感に満ち溢れた素晴らしい笑顔でフィニッシュする。この仕事をしていて良かったと思える瞬間です。

―大阪マラソンの運営を通じて、林さんが感じておられる「スポーツの力」とは?

 スポーツの力というのは「感動」なのかなと。その感動はひょっとしたら人生も変えるかもしれない。そんなきっかけを与えてくれる感動がスポーツにはあるなと思います。

 それは先程もお話したように、競技をする方だけではなく、見る方や支える方々もそれは感じると思うんです。以前僕の知人が奥さんを連れて大阪マラソンを見に行ったらしいんですよ。はじめ奥さんはあまり興味がなかったようですが、頑張っているランナーにチョコレートをあげようということになったらしく。だんだん応援が楽しくなってきたそうで、持ってきていたチョコレートがすぐに無くなって。そしたら奥さんは”もっと渡してあげたいからはよ買ってきてよ!”と言ったそうで。ところが、歩道は人でいっぱいで歩きにくい。向かいに店を見つけたもののコースを横断できない。知人はチョコレートを必死で探し回ったようで(笑)。それ以降、知人の奥さんは大阪マラソンに応援に行くのを毎回楽しみにしているとのことです。それって不思議な感じですよね。自分の知り合いでもないランナーの方だけど、チョコレートをもらってくれたら嬉しいという気持ちになる。単純に”頑張れー”と声を掛けただけでも、”おー!”と言ってもらえたら、自分の応援する気持ちが届いたと思って感動するんですよね。僕は運営なので最終的にはフィニッシュの付近にいることが多いんですけど、膝が痛い、腰が痛い、脚が動かないと苦痛の表情を浮かべていたランナーが、フィニッシュの瞬間には達成感に満ち溢れた素晴らしい笑顔に変わる。そういう姿を見ると、この仕事をしていて良かったと思います。僕自身も河川敷を走ったりしますが、大阪マラソンのTシャツを着て走っている人を見かけることがあって、その時も凄く嬉しいです。

 そういう大小かかわらず様々な「感動」がスポーツにはあると思います。それが発展していき地域を活性化したり、国を大きく動かしたりするのかもしれません。スポーツはそういう意味では一番身近なものだと思っています。大阪マラソンをそういう本質的なところでメジャーにしていきたいですね。

林 昌之   はやしまさゆき

大阪体育大学卒業後、1983 年府立高校、2006 年全国高校総体事務局競技担当。2008 年府立高校教頭等を経て2015 年(第 5 回大会)より大阪マラソン組織委員会事務局で競技運営担当。現職の他に、2001 年より全国障がい者大会の大阪府選手団水泳コーチ、2017 年より監督。