“意見を合わせなくてもいい”──野球チームの空気が変わった瞬間

部活動リノベクエストLabo【公式】「部活動は終わりじゃない、始まりだ」

部活動の地域展開をどうおこなっていくのか?
その実証活動でLaboが関わったある中学校の野球チーム。
周りも驚く変化を遂げています。
 先日、中学3年生5名にインタビューしましたが(記事はこちら
引き続き、中学2年生にもインタビューが実現しました。
 上級生と下級生の関係性がうまくいかず悩んでいたこのチームが、なぜ数か月で変貌を遂げたのか?
 そのヒントを探りに、当事者である中学生に話を聞いてきました。

 中学2年生のFくんは、野球を通して「わからないことから始める学び」と、「人と関わる面白さ」を少しずつ手にしていきました。

“意見を合わせる”のではなく、“出し合える”空気ができたとき、チームも彼自身も、大きく変わりはじめます。

言葉を丁寧に選びながら、自分の思いを形にしようとするFくんの姿から、子どもの成長のヒントが見えてくるかもしれません。

「わからない」から始めたからこそ、見えたもの──Fくんの野球と成長の記録

自分には、まだ意見がなかったんです。わからなかったから、まずは言われた通りにやってみようって。

そう語るのは、中学2年生のFくん。

小学校ではソフトボールをしていた彼が、中学では野球に取り組み、昨年秋にLaboの実証活動に参加したことで、野球への向き合い方も、大きく変わっていきました。

「打ち方」とか野球のことをちゃんと教えてもらえたのは、Laboが初めてでした。

同級生たちはすでにある程度野球のことを理解しているように見え、自分はまだ“わかっていないんだ”と感じたといいます。

けれど、Fくんはそこで立ち止まりませんでした。

まずは自分は教えられたままにやってみる。そこから自分のものにしていくんだなと思ったんです。

“わからない”ことをただ受けとめて、一歩を踏み出す。そんな素直なFくんの姿勢が、野球との関わりをゆっくりと変えていったのではないでしょうか?


チームの関係性が変わったのは、“意見を言ってもいい”空気が生まれたから

Fくんがこの1年で感じた変化のひとつに、「人との関係性」があります。

当初(昨年秋時点)では、上級生と下級生の間に距離があり、意見交換も難しい雰囲気があったといいます。

けれど、Laboのスタッフが関わるミーティングなどの中で、少しずつ空気が変わっていきました。

今春の大会前のミーティングでは、「チーム一丸となって試合に臨みたい」という上級生たちの思いを直接聞く機会があり、「共通の方向を向いた感じがした」とFくんは語ってくれました。

 その後、初勝利を見事コールド勝ちでおさめたチームは、あれよあれよというまに勝ち進み、どんどんチームの空気が変わっていくことになります。

意見をすり合わせるって言ったらちょっと違うかもしれないけれど、それぞれの考えを“言ってもいい”って空気になっていった。
一緒に食事に行ったりして、上級生と下級生との距離が近くなったと感じた。

意見を“合わせる”のではなく、“並べて共有する”。

そのプロセスを何度も繰り返すうちに、関係性が深まり、自然とチームの雰囲気もよくなっていったとFくんは話します。

「考え抜くタイプなんです」──言葉を丁寧に選ぶ

Fくんは、自分のことを「ひとつの物事に対して考え抜くタイプ」と語ってくれました。

 話し方もとても丁寧で、頭の中にある思いをできるだけ正確に、誠実に言葉にしようとする姿が印象的です。

国語の授業などで「言葉は刃物です」と聞いたことがあるけれど、
僕はそんな経験がないから、そうは思わないんです

と、習ったことよりも自分の実感を大切にした言葉を返してくれました。

また、Laboに初めて出会ったとき、「何の団体なの?何をするの?」という不安を感じた選手たちが多かった中で、

Fくんだけは「何を教えてもらえるんだろう?という好奇心がありました」とポジティブな感情を抱いていたとふり返っていました。

知らないことに対して不安よりもワクワクが勝つ。

そんな柔らかくてしなやかな好奇心も、これからのVUCA時代(何が起こるかわからない不明確な時代)を幸せに生きる強みとして、さらに生かしてほしいです。

「なぜそんなに丁寧な言葉選びができるの?」という問いに対し、

芸人さんかなぁ。お笑いが好きなお父さんと一緒にM-1を観たりしました。
起承転結がありつつも、お客さんを楽しませるという目的のために言葉を選んでるのがすごいなと思う。

と答えたFくん。まだあどけなさの残る笑顔の奥には、自分の内にある思いを表現できる言葉を、少しずつ育てていこうとする強さがありました。


「スタメンを目指したい」

これからの目標を聞くと、Fくんははっきりと答えてくれました。

スタメンを目指したい。それから、試合に勝つなどの目標を達成したい。でも、目標を達成できなくても、上級生も下級生も関係性よく野球をやりたいんです

お父さんからかけられた
下から見上げる視点を大切に。それから、全力でやれ」という言葉も、Fくんの中で静かに息づいています。

勝ちたい気持ちもある。でもその先に、仲間と一緒に楽しみながら成長したいという願いがある。

そんなまなざしの中に、Fくんの“これから”が確かに見えていました。


🕊 インタビュアーあとがき

今回のインタビューでFくんと向き合っていると、彼の中に流れている時間のリズムが、とても静かで、でも澄んでいることに気づきました。

言葉を選ぶその姿勢はとても真剣で、でもどこかやさしくて──。

だから私は、あえて急かさず、私の言葉でつながず、彼が納得する言葉で表現するのをただ待ちました。

そして、その静かな“間”の中に、彼自身の言葉がそっと浮かび上がってくる瞬間が、15分のインタビュー中に何度もありました。

いまの彼にとって、「すぐ答えなくてもいいよ」と感じられる空気こそが、一番の安心なのかもしれません。

問いを投げかけられたとき、心の奥をゆっくり探しにいけるような、そんな空間と時間。

それがあるからこそ、Fくんは今、自分の言葉で世界を少しずつ描こうとしているのだと思います。

もしこの先も、彼がよりのびのびと表現できる場に出会えたら──

彼の中にまだ眠っている感性や知性は、もっと大きく花ひらくと思います。

そして、それはきっと、誰かの期待に応えるかたちじゃなく、彼だけのリズムと色で。

彼のやさしさや誠実さをそのままに、力強い芯の部分を表現する一歩を踏み出す瞬間が、もうすぐそこまで来ている。

大人の私たちにできることは、「こうなってほしい」という方向へ育てようとすることではなく、彼が自然と一歩を踏み出せるような土壌を、焦らず耕していくことなのかもしれません。

きっと、彼の中にはまだまだ誰も見たことのない“おもしろさ”や“発見”が眠っている。

だからこそ、そんな環境が少しずつ整っていく未来を、私はすごく楽しみにしています。

この記事を書きながら、子どもたちが安心して自分を表現できる“土壌”を育てることの大切さを、あらためて実感しました。

私たちLaboは、そうした場所を創る活動をさらに広げていくために、現在クラウドファンディングに挑戦中です。

子どもたちの「やってみたい」が育つ場を、もっと広く、もっと持続可能な形で届けていけるよう──

ぜひ、ご関心・ご共感いただけた方は、応援というかたちで関わっていただけたら嬉しいです。

クラウドファンディング詳細はこちら

部活動リノベクエストLabo:小西統紀子